「おいらも間抜けであった」
「何だよ」
「【真っ赤なスカーフ】の歌詞解釈の問題というものが歴然とそこに横たわっていることにずっと気付いていなかった」
「それはなんだい?」
「ヤマトファンがみんなで【真っ赤なスカーフ】を歌うというのはよくある光景だ。それそのものは、何ら奇異ではない」
「うん」
「ところが、歌っているヤマトファンが同じイメージを共有しているのかと言えば、実はそうではなかったらしい」
「えっ?」
「漠然と【同じ】あるいは【同じではないまでも似ている】と思うのは大間違い」
「なぜ分かったの?」
「迂回ルートから真っ赤なスカーフを逆照射して分かった」
「説明してくれ」
星永遠問題とは何か §
「ヤマト2199の第1章を見た時、正直言ってエンディングの歌が凄くつまらなかった。なんでこんなつまらない歌がヤマトに付いているのかと思った」
「えー」
「ところが、後から聞こえてきた話を聞くとどうも様子が違う」
「どんな話?」
- 【この歌が好き】【思い入れがある】【良いと思う】というヤマトファンが多くいる
- 「真赤なスカーフ」の歌詞における、スカーフを振っていた娘の視点からのアンサーソングになっているという
- 歌った結城は、本曲の歌詞に感情移入し過ぎて号泣し、レコーディング初日には全く歌えなくなってしまったという
「まるで正反対じゃないか」
「そうだ。まるで正反対だ」
「いったいどこで君は間違ったんだよ」
「いいかい。これは何が間違いという問題で無いのだよ」
「何が問題なの?」
「歌とは常に解釈の幅というものを持っていて、その幅の中で自由に解釈を選択するものなのだよ。意識するしないに関係なくね」
「つまり星永遠の解釈には幅があるという問題かい?」
「そうじゃないよ。実は真っ赤なスカーフの解釈そのものからして、全く別物だったということだ」
「はぁ?」
星永遠解釈の問題 §
「つまりだな。【星が永遠を照らしてる】の歌詞を解釈することで、逆に彼らの【真っ赤なスカーフ】の解釈を導出しうるのだ」
「理屈で導出しなければらないものなの?」
「そうだ。他人の心の中なんて、想像しただけではワカランものだ。理屈で分析して浮かび上がらせないと分からない」
「では分析してくれ」
「歌詞から見えてくる星永遠解釈では以下のようになる」
- カップルが基本である
- 男が旅立ち、女はずっと純粋に待っている
- 女は愛に対して純粋であり、必死に祈っている
- 再会したい
- 純粋な愛の連鎖が命の物語である
「美しい話じゃないか」
「過剰に美しすぎる」
「は?」
「こういう歌が真っ赤なスカーフのアンサーソングだという話は200万光年ぐらい遠く離れていて、おいらには理解不能だ。人間よ理解不能だ」
「もうちょっと説明してくれ」
実際の真っ赤なスカーフの歌詞 §
「真っ赤なスカーフの歌詞には、カップルは出てこないし、待っている女性とは【夢の中の願望】に過ぎない」
「実際に出てくる話はなに?」
- 旅立ちに際して真っ赤なスカーフを振った女がいる
- 誰に向かって振ったのか分からない
- みんな、自分だと思えば良い。ロマンのカケラが必要だからだ
- 必ず帰ると言うが、それは男の側が一方的に言っているだけで、女が待っているかどうかは分からない
- 女が待っていて欲しいと思うが、男の側が思うだけで女の側が待ちたいと思っているかは一切分からない
「つまりなんだい?」
「そこにロマンはあっても愛の存在を証明するものはない」
「えー」
「仮に愛があっても相手は1人だけ。残りは全員、愛の幻想しか持つことができない」
個人的解釈 §
「君の解釈を述べてくれ」
「真っ赤なスカーフはね。スカーフを振った女には、積極的に【愛は無い】と言いきった方が良いぐらいの歌詞だ」
「なんで?」
「【みんなその気でいればいい】とは全員が【その気になっているに過ぎない】、実際には誰1人として愛されていないという意味だと思う」
「まさか」
「地球でけなげに祈っている女など実際にはいない。そんなものは宇宙の果てで宇宙戦士の夢の中に出てくるだけだ」
「ひ~。じゃあ実際にスカーフを振った女が祈っていないとすれば、何をしていると思う?」
「ヤマト乗組員の誰かの帰りは待っていないだろう。おそらく近所の誰かを彼氏にして、食料寄越せという暴動に参加して、悪鬼のような顔で暴れているに違いない。相原の父親を殴って怪我をさせているのかもしれないぐらい」
「まるで美しくない」
「そうさ。いつまでもいつまでも平和を願って祈り続けるのはテレサのような女神だけに許された特権だ。生身の女がそんな殊勝なことをするものか。何しろ日々を生きていかねばならないのだ。食事は必要だし、地下都市に押し込められていれば息も詰まる。そして放射能の恐怖も迫る。まともな神経で生きていけるわけがない」
「それは横に置こうよ。じゃあさ。一応女はヤマトの理組員の誰かの恋人でさ。帰りを待っているという前提を置こうよ。そこまでは真っ赤なスカーフの歌詞とも矛盾しないんだから」
「いいとも」
「そこまでは君も解釈可能な世界なのだろう?」
「そうだ」
「じゃあ、その線で解釈してくれ」
第2の解釈 §
「この場合、自分が感情移入する相手は、【彼女はいないが、自分に向かって振られたと思っている勘違いしている男】になる」
「つまり、地球に彼の帰りを待っている女はいないのだね?」
「そうだ。誰かの帰りを待っている女はいるが、彼を待っている女はいないのだ」
「その気でいれば良いだけで、事実は違うわけだね」
「帰ったら残酷な現実が待っている感じだ」
「それでもいいの?」
「いいのだ。どうせ地球に戻ればヤマト乗組員全員が女にモテモテだ」
「ぎゃふん」
「でもね。モテるのは地球に戻った後だ。それまでは、彼を慕う女などいない」
「分かった。つまり、この解釈でも真っ赤なスカーフの対するアンサーソングなるものは存在しないわけだね?」
「それを歌う女は存在しないのだ」
「男の瞳に映った夢の中の女は実在しないわけだね」
「そう。その非実在性こそが真っ赤なスカーフの本質そのもの」
「ひ~」